概要
ろう・難聴者が抱える最大の問題の一つに話しかけられたことに気づけないことがあります。聴覚障害は外見や行動だけでは障害の有無やその程度に気がつかず、話しかけられても気がつかない様からコミュニケーションの機会の損失を大きく受けています。 Air Talk-Starterは空気渦輪を話しかけられた人の頭部に当てることでその方向を提示し、コミュニケーションの入り口を作りやすくします。
経緯
ろう・難聴者と聴者同士のコミュニケーションについては、手話、筆談、チャット、音声認識といった手段があります。しかしながら、話しかけについてはあまり着目されていません。 チームメンバーでろう者の設楽はろう・難聴者から聴者に話しかけるとき、あるいは逆のパターンのときも、お互い置かれている状況が汲み取りにくく戸惑うことがあると考えていました。 それに加えて、スマートフォンやスマートウォッチなどの振動を用いた触覚提示を用いるとなると、強制的に振動に気を向けてしまうという違和感を抱えやすく、話しかけに適しにくい。そしてどうしても自分の身体に接触しないといけないことが気がかりでした。 そこで、今回研究室で開発されていた空気砲システムが「離れている相手に触覚提示を可能とする」「振動ではなく自然な触覚提示なので、イライラする必要がない」という特徴を持っていることに気づきAir Talk-Starterプロジェクトは始まりました。
機能
空気渦輪とは空気砲から射出されるドーナツ状の渦のことで空気中を長く移動することができ衝突した面には強い力を与えることができます。開発したシステムは空気砲の筐体に取り付けられた5個のスピーカを駆動させることで中の空気を押し出し空気渦輪を発生させるとてもシンプルなものです。面白いことに空気渦輪を人間の髪の毛に当てるとそれが振動子として震えるため地肌に当てるよりも触覚の認識精度が高くなります。これを利用し頭部に空気渦輪を当てることでどの方向から当てられたか認識でき、話しかけられた方向だと解釈することができます。
開発過程
Air Talk-Starterのコンセプトが生まれた以降ろう者である設楽との議論を繰り返し、その中でそれまで開発していた空気砲はインフラとして設置されるには力や飛距離、方向安定性が低いことが課題として浮き彫りになりました。流体工学の空気渦輪の理論に基づき、力や飛距離を大きくするために空気砲の開口部の直径を大きくし、スピーカの直径を大きくしたりスピーカの個数を増やしました。また方向を安定させるには単純な円形の開口部ではなく火山のような形に改良をしました。 また空気砲の開発を進める中で従来空気砲の射出には音が鳴っていましたが、スピーカへの駆動波形になまりを加えることで、力や飛距離は少し小さくなってしまいますが71dBから55dBに静音化させることができました。これを使いろう者のための建築空間であるデフスペースだけでなく、聴者がいる環境など音が鳴ることで新たなバリアを生むバリアフリーコンフリクトが起こってしまう場への導入の選択肢を作り出せるようになりました。
差別化
ろう・難聴者へ話しかける既存の手法には目を合わせる、肩を叩く、机を叩く、ものを投げるなどがあります。問題点はろう・難聴者と目が合わず手が届かない場合話しかけることができないことです。 補聴器の研究は1800年代からなされてきましたが聴者と同様に音を伝えるレベルには至っていないです。そのため音を振動に変換する手法が開発されてきましたが、身体に複数個取り付けなければ話しかけられた方向を提示することはできません。またろう・難聴者のみが身につけている現状であり、他者の目を気にしてしまい日常的に使いにくいです。 Air talk-starterはろう・難聴者が何も着用することなく部屋のどこにいたとしても話しかけられた方向を提示できます。
将来の計画
ろう・難聴者への被験者実験を繰り返していくことで、フィードバックを得てシステムの改良を続けていきます。またそれと並行して空気砲に付属したカメラによって話しかける人が振る手を検出し、そこから話しかけられた対象者の座標を計算し、空気砲をそこに向かって射出するシステムを続けて開発していきます。実験を予定しているだけではなく、手を振る行為を検出に関する技術も既に出回っているのもあることから、統合における技術的実行可能性は高いと考えています。 2030年に向けてろう学校やデフスペースを取り入れている現場への導入実験、空気砲の静音化によるバリアフリーコンフリクトの解消を実現していき、SDGsに掲げられる「4.教育」「8.働きがい」「10.不平等」「11.まちづくり」という4つの目標にも貢献していく。
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