概要
自閉症スペクトラム障害の人に向けた集中のコントロールをサポートするツール。自閉症スペクトラム障害は高い集中力や記憶力をもつ反面、他のことに意識が向けられないため周りの呼びかけに気が付かない、時間感覚がなくなり生活リズムが狂ってしまうなど日常生活に支障をきたすことがある。 自閉症スペクトラム障害の特性である視覚的優位を生かし、ブロックが積み上がった高さで回数・時間を可視化し進捗把握を促す。また、ビー玉を転がし止まった場所に従ってあらかじめ決めた行動をとることで、意識を外に向け十分な時間休憩をとることを促す。
経緯
近年、日本では障害を持つ人の職場や学校などでは支援や対策が進み、世間からの障害者に対する理解は深まってきている。しかし発達障害や医療機関での診断が難しいグレーゾーンの特質を持つ人は見た目での障害の有無がわかりづらく障害への理解が十分でないことや、専門知識を持った職員の不足などの理由から、支援が行き届いていないことが問題である。発達障害を持つ多くの人は健常者に比べて日常生活を送る上でつまずくことが多い一方、得意な分野では高い集中力や記憶力を発揮することが多い。そこで日常生活で困難に感じる部分をサポートすることで、個人の得意分野を生かすことができると考えた。
機能
本作品は6つのアクリルブロック、トレイ、ビー玉からなる。 アクリルブロックの内部は階段状になっており、ブロックを順番に重ねると内部の階段が繋がり、螺旋階段のように上から下までビー玉が転がり落ちるようになっている。トレイは浅く3箇所に区分けされており、アクリルブロックから転がり出たビー玉の受け皿とルーレットの機能を果たしている。 使用者は、事前に休憩を挟む目安の時間や作業量(例:20分に1回、10ページに1回)とトレイの左、中央、右に対応する休憩行動(例:左に止まったらお茶を一杯飲む)を決めて使用を始める。休憩目安時間になったらアクリルブロックを1段積み、ビー玉を転がして止まった場所に応じた休憩行動をとる。これを繰り返すことで、一定時間ごとに休憩を促し、過集中を防止する。また、アクリルブロックが積み上がることによって、自閉症スペクトラム障害の人が実感しづらい時間や作業量の蓄積、進捗状況を高さの推移で視覚的に体感し、達成感や満足感に繋げる。
開発過程
軽度自閉症スペクトラム障害で過集中症状のあるデザインパートナーにインタビューとユーザーテストを繰り返し行ってもらい制作を進めた。 インタビューの結果、何をして休憩をすればいいかわからないこと、一度作業を始めると完全に終わるまで続けてしまうこと、の2点が過集中になってしまう主な要因であると考えた。これをもとに1つ目のプロトタイプは休憩時間にパズルのように遊ぶことができる形状のものを考案した。様々な形の穴が空いている円盤を突起のついた棒に差し込み、回しながら突起と穴を合わせて円盤を重ねていくものだったが、複雑すぎて逆に休憩にならないというフィードバックだった。 そこで、2つ目では、ブロックを積み重ねていく形を踏襲しつつ、パズル要素は無くし、ビー玉を転がすことで休憩の始めにビー玉を転がすというルーティンを作ることを目指した。フィードバックとしては、ブロックを積んでビー玉を転がす、という作業は簡単にできて良いが、休憩にしては時間が短いことが上がった。また、木製のため中身が見えないが、ビー玉が転がっていく様子がしっかり見えたらとても楽しいのではないかという意見もあった。 これを受けて3つ目はブロックをアクリル製にし、階段部分だけを木製にすることでビー玉が転がる道筋と、転がっている様子が見えるようにした。また、ビー玉が転がり出る先のトレイをルーレット形式にし、最終的にビー玉が止まった位置に応じて何か行動をすることで、自然に休憩へ導入できるようにした。デザインパートナーに数日間使用してもらい、 休憩の始めにやることが決まっていてルーティン化しやすかった、休憩をとるごとに円盤を積み重ねることでどのくらい頑張ったかが可視化されもっと頑張らないといけないという思考がストップできた、というフィードバックをもらい、始めにあげた過集中の要因2点へのアプローチができた。 最終的にはトレイの形状を見直し現在に至っている。
差別化
集中力をコントロールするツールとして、タイマー付きの時計や一定時間を超えるとパソコンやスマートフォンの画面を自動で閉じるアプリなどの類似事例が挙げられる。しかしデザインパートナーへのインタビューや自閉症スペクトラム障害を持つ方へのヒアリングを行ったところ、タイマーのアラームが鳴ることで時間が経過したことはわかるが、そこから休憩をとる行動に移すことができない、また画面が閉じるアプリなどは今までやっていた作業を同意無しに打ち切られることによるストレスや、中途半端に終わったことでより気になって集中力が過度に高まるという逆効果があることがわかった。本作品carariは一定時間経つごとにブロックを積みビー玉を転がすという作業を挟むことで違う行動を取らせ、ビー玉の止まった目に沿った行動をとることで自然に意識を作業外へ持っていく点が上記の類似事例と異なり優れている点である。
将来の計画
使用者があらかじめ休憩時にとる行動を決めておくという動作が煩わしい作業となっていると考えている。今後ブラッシュアップするのであれば作業前に考えるのではなく、こちらからあらかじめいくつか案を提示し、カードなどの形態にしてその中から選んでもらうという方法が良いと考えている。
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